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著者がコペル少年の精神的成長に託して語り伝えようとしたものは何か。それは、人生いかに生くべきかと問うとき、常にその問いが社会科学的認識とは何かという問題と切り離すことなく問われねばならぬ、というメッセージであった。著者の没後追悼の意をこめて書かれた「『君たちはどう生きるか』をめぐる回想」(丸山真男)を付載。
吉野 源三郎
1899年東京生まれ。1925年、東京帝国大学文学部哲学科卒。同年に志願兵として軍役についたのち、三省堂編集部で『大英和辞典』の編集にあたる。東京帝国大学図書館にて勤務。31年に非合法活動に関与したとして治安維持法違反の廉で逮捕。予備将校であったため軍法会議に付され、1年半を陸軍刑務所で過ごす。
35年、山本有三の好意で新潮社「日本少国民文庫」の編集に参画。これは、軍国主義の時勢に抗してヒューマニズムを子どもたちに伝えることを意図された全16巻の双書で、吉野源三郎は編集主任となる。『君たちはどう生きるか』もその1冊として1937年刊行。この年、盧溝橋事件が勃発した。
37年、明治大学で教鞭を執る傍ら、岩波茂雄からの誘いで、岩波書店入店。 38年には、日中戦争下における批判的精神の欠如を戒め、現代的教養を広めることを目的とし、岩波新書の創刊を主導。45年、雑誌『世界』初代編集長(〜65年)。知識人を「平和問題談話会」に組織するなど、同誌を中心に戦後日本の平和と民主主義を支える論陣を張った。50年には岩波少年文庫の創刊にも携わる。50年常務取締役,65年以降は編集顧問。81年没。
著書に、児童・生徒向けには『君たちはどう生きるか』(岩波文庫)、『人間の尊さを知ろう』『エイブ・リンカーン』(以上、ポプラ社)。そのほか、『同時代のこと――ヴェトナム戦争を忘れるな』 『職業としての編集者』(以上、岩波新書)、『人間を信じる』(岩波現代文庫)、 『平和への意志――『世界』編集後記1946-55年』 『「戦後」への訣別――『世界』編集後記1956-60年』(以上,岩波書店),『七〇年問題のために闘っている諸君へ』(現代の理論社)などがある。