Detail
北海道、浦河。襟裳岬に近い過疎の町に「べてるの家」がある。精神障害を抱える人たちがみずから共同住居と作業所をいとなんで、長い年月が過ぎた。
特産の昆布からさまざまな商品を作って売る。これがべてるの活動の根幹である。そのユニークな自己表現は全国から注目を浴び、地域社会とともに新しい道をさぐる姿に共感が集まっている。
けれども、ここまで来るにはじつに語りつくせないほどの苦労があった。病を持ちながら一人の人間として生きるとはどういうことなのだろうか。べてるでは、効率優先の現代社会とはひと味違う原則が貫かれている。無理はしなくていい。治さなければと焦ることはない。「そのままでいい」のだ。悩みを持つ仲間と語り合い、ともに過ごす。そこには弱さを絆にした豊かな人間関係が息づいている。
なぜこのような生き方が可能だったのか? それを問いはじめた著者を待ちうけていたのは、自分自身の精神の漂流だった。
★第24回講談社ノンフィクション賞受賞!★
斉藤道雄
一九四七年山梨県生まれ。慶應義塾大学卒業、TBS社会部・外信部記者、ワシントン支局長、「ニュース23」プロデューサーなどを経て、現在「報道特集」ディレクター。著書『原爆神話の五〇年』中公新書、1995年、『もうひとつの手話』晶文社、1999年。