Detail
アイスランド北西部の農民たちは、巣を作るケワタガモのために遠く離れた海岸沿いの平野を掃除し、夜が明けるまで天敵であるホッキョクギツネを駆除する。ボルネオ島の広大な洞窟では、男たちは危険をかえりみずにはしごで高所に上り、アナツバメが去っていかない程度に巣を集める。
カモの羽毛と食用の鳥の巣は、どちらも市場では単に高級品として持て囃されている。だが、採取者にとっては汗や血だけでなく、生まれ育った地の伝統や伝承、神話が染みこんだものであり、自身や家族や祖先のアイデンティティと歴史を作ってきたものなのだ。
採取者たちの劣悪な労働環境、生態系の破壊、そして塗り替えられた伝承……。アイスランドの海岸からインドネシアの大洞窟、ペルーの高原へ、著者は7つの希少な天然素材を追い、採取者をはじめ、仲介業者や起業家の声までも丹念にたどっていく。
自然と人間と市場――いったい、共生したがっているのはだれなのか? インタビュー、歴史叙述、紀行文を融合した巧みな文体で紡がれる物語は、私たちが知る世界の豊かさの、まったく別の表情を見せてくれるだろう。
目次
序章
第1章 アイダーダウン ケワタガモの羽毛
第2章 アナツバメの巣 食べられる鳥の巣
第3章 シベットコーヒー ジャコウネコが排泄したコーヒー豆
第4章 シーシルク 二枚貝シシリアタイラギの足糸
第5章 ビクーニャの毛 ラクダ科動物の高級ウール
第6章 タグア “木に生える象牙”ゾウゲヤシの種子
第7章 グアノ 有機肥料になる鳥糞石
エピローグ
謝辞
訳者あとがき
原注
索引
エドワード・ポズネット
Edward Posnett
ロンドンに生まれ、ケンブリッジとオックスフォードで学んだ後、信用調査の職に従事。金融業界を離れてほどなく、農民たちが貴重な軽量ダウンと引き換えに野生のケワタガモを保護するという、アイスランドのアイダーダウン収穫の伝統を知る。共生と協力という関係に魅了されてアイスランドへと旅に出た彼は、その経験をもとに「アイダーダウン」(本書第1章)を書き、ボドリー・ヘッド/フィナンシャル・タイムズのエッセイ賞を受賞した。