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辛辣な批評、洒脱な機知。
技巧にたけ、一作ごとに語り口を変え、趣向を凝らした短篇8作。
これぞ短篇の名手、芥川の真骨頂!
京の都が、天災や飢饉でさびれすさんでいた頃。荒れはてた羅生門に運びこまれた死人の髪の毛を、一本一本とひきぬいている老婆を目撃した男が、生きのびる道を見つける『羅生門』。
あごの下までぶらさがる、見苦しいほど立派な鼻をもつ僧侶が、何とか短くしようと悪戦苦闘する姿をユーモラスに描いて夏目漱石に絶賛された『鼻』。
ほかに『芋粥』『好色』など、“王朝もの"全8編を収録する。
目次
羅生門
鼻
芋粥
運
袈裟と盛遠
邪宗門
好色
俊寛
注解 神田由美子
芥川龍之介 人と文学 三好行雄
『羅生門・鼻』について 吉田精一
年譜
本書「芥川龍之介 人と文学」より
菊池寛に〈人生を銀のピンセットで弄んでゐる〉との評があるが、同時に、玲瓏と完結したぬきさしならぬ行間に、ふときざす情念のゆらぎがあり、日本人になつかしい抒情がただよう。虚構の花の空間に、身をひそめた優しい花に龍之介の素顔も彷彿する。
――三好行雄(東京大学教授)
芥川龍之介(1892-1927)
東京生れ。東京帝大英文科卒。在学中から創作を始め、短編「鼻」が夏目漱石の激賞を受ける。その後今昔物語などから材を取った王朝もの「羅生門」「芋粥」「藪の中」、中国の説話によった童話「杜子春」などを次々と発表、大正文壇の寵児となる。西欧の短編小説の手法・様式を完全に身に付け、東西の文献資料に材を仰ぎながら、自身の主題を見事に小説化した傑作を多数発表。1925(大正14)年頃より体調がすぐれず、「唯ぼんやりした不安」のなか、薬物自殺。「歯車」「或阿呆の一生」などの遺稿が遺された。