Detail
文壇を惑乱し、陶酔させた異才。その出発点。
芥川賞受賞の表題作を含む初期短編集。
アメリカン・スクールの見学に訪れた日本人英語教師たちの不条理で滑稽な体験を通して、終戦後の日米関係を鋭利に諷刺する、芥川賞受賞の表題作のほか、若き兵士の揺れ動く心情を鮮烈に抉り取った文壇デビュー作「小銃」や、ユーモアと不安が共存する執拗なドタバタ劇「汽車の中」など全八編を収録。
一見無造作な文体から底知れぬ闇を感じさせる、特異な魅力を放つ鬼才の初期作品集。
【目次】
汽車の中
燕京大学部隊
小銃
星
微笑
アメリカン・スクール
馬
鬼
本書「解説」より
注目すべきことは、小島氏の(主題としている)「アメリカ」が、「近代」というものをすでになにかのかたちで体験したことがあり、人間には自律した内面があり得ることを識(し)った日本人のとらえた「アメリカ」ではなく、いわば「近代」という仲介者なしに土俗がそのままとらえた「アメリカ」だということである。このような「アメリカ」は、私の知るかぎりでは大江健三郎氏の作品にしか登場しない。そして小島氏と大江氏との根本的な相違は、大江氏にとっての「アメリカ」が明らかになにかを解放したものととらえられているのに対し、小島氏のそれがもっとも深い敗北をもたらした圧力――しかしつながりようのない圧力としてとらえられている点にあるものと思われる。
――江藤淳(文芸評論家)
小島信夫(1915-2006)
岐阜県生れ。東京大学英文学科卒。1954(昭和29)年「アメリカン・スクール」で芥川賞、1965年『抱擁家族』で谷崎潤一郎賞、1972年『私の作家評伝』で芸術選奨文部大臣賞、1981年『私の作家遍歴』で日本文学大賞、1982年『別れる理由』で野間文芸賞、1997(平成9)年『うるわしき日々』で読売文学賞。その他の著書に『各務原・名古屋・国立』、保坂和志との共著『小説修行』ほか多数。2006年遺作『残光』を発表後、肺炎のため死去。