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シングルマザーのさなえは、幼い息子の希敏をつれ、海辺の集落に戻ってきた。芥川賞受賞の表題作「九年前の祈り」他、四作を収録。三十五になるさなえは、幼い息子の希敏をつれてこの海辺の小さな集落に戻ってきた。希敏の父、カナダ人のフレデリックは希敏が一歳になる頃、美しい顔立ちだけを息子に残し、母子の前から姿を消してしまったのだ。何かのスイッチが入ると引きちぎられたミミズのようにのたうちまわり大騒ぎする息子を持て余しながら、さなえが懐かしく思い出したのは、九年前の「みっちゃん姉」の言葉だった──。
九年の時を経て重なり合う二人の女性の思い。痛みと優しさに満ちた〈母と子〉の物語。 表題作「九年前の祈り」他、四作を収録。芥川賞受賞作文庫化。
九年前の祈り
ウミガメの夜
お見舞い
悪の花
小野正嗣
大分県蒲江町(現佐伯市)出身。東京大学教養学部卒業。
同大学院総合文化研究科言語情報科学専攻博士課程単位取得退学。パリ第8大学Ph.D。
立教大学文学部文学科文芸・思想専修教授。
2001年、「水に埋もれる墓」で朝日新人文学賞受賞。
’02年、『にぎやかな湾に背負われた船』で三島由紀夫賞受賞。
’15年、「九年前の祈り」で芥川龍之介賞受賞