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世界的建築家〉は、
日本の浮世絵と
美意識に魅了された
〈世界的収集家〉だった。
近代建築の巨匠ライトが遺した、浮世絵にまつわる評論/エッセイを一冊にまとめる、本邦初の書籍! ライトが日本で収集し、アメリカに持ち帰った作品のカラー図版、96点を収録!
〈イリノイ州オークパークの設計室で歳月を過ごしながら、日本の浮世絵に魅了され、多くのことを学んだ。重要でないものは排除する、つまり芸術における単純化のプロセスに私は二十三歳のときから取り組んできたが、この確証を浮世絵に見出したのだ。浮世絵を発見してから、日本は世界でもっともロマンチックで芸術的な国であると思うようになった。日本の芸術は生き生きとした魅力にあふれ、大地に深く根差している。それはあの国の人々の生活や労働状況から生まれた固有の産物で、ヨーロッパの歴史上のどの文明よりも「現代的」だと思わせた。〉
〈葛飾北斎は日本の風景を通して日本人の日常の精神を解釈できるもっとも偉大な浮世絵師だ。歌川広重は自分が目にして愛した日本の風景の特質と日本人を、絵師として最大限忠実に、最大限シンプルに描写した。また根っからのユーモリストであったから、彼らとともに高らかに笑い声を上げた。北斎は「自然」を巧みに扱う偉大な芸術家で、広重は感じたままに自然を描き上げる素朴な詩人だった。広重も北斎も、世界に存在する同類文化よりも価値ある文化の貴重な担い手だった。ともに自分たちが愛し、理解したこの世における「消えゆく世界」を、日本人として記録した。単なる形の写実的な概念に囚われ、何の成果ももたらさないこの混乱の時代に、ただふたりが残したかすかな手掛りが、われわれに進むべき道を教えてくれるように思える。〉
――本書より
目次
第1章 浮世絵 ひとつの解釈
第2章 暫(しばらく)
第3章 未来の世代のために
第4章 一九〇六年シカゴ美術館「広重展」序文
第5章 日本古代誌
第6章 浮世絵を追い求めて
フランク・ロイド・ライト
(Frank Lloyd Wright)
1867〜1959。1893年開催のシカゴ万博日本館「鳳凰殿」からインスパイアされた建築様式(プレーリー・スタイル)で、一躍人気建築家となる。独自の「有機的建築」という考え方はこの初期からのものである。1900年頃にニューヨーク山中商会の林愛作と知り合い、浮世絵蒐集を開始。1905年に初来日、その際に数百枚の浮世絵を購入したという。翌1906年にはシカゴ美術館でシカゴ初の浮世絵展となる「歌川広重展」開催にかかわり、広重作品の蒐集家としても知られるようになる。1910年頃から建築家として不遇の時期を迎えたが、浮世絵のアートディーラーとしての収入が生活を支えた。1916年、帝国ホテル支配人となった林愛作からホテル新館の設計を依頼される。ライトは「総合芸術」を唱え、照明器具や壁紙、絨毯、食器に至るまでインテリア全般をすべてデザインしたが、その結果予算・工期が大幅にオーバーしてしまう。1922年に林愛作が支配人を辞任し、ライトも解任され、アメリカに帰国した。そして結果的にライトがアメリカへ持ち帰った大量の浮世絵は震災の難を逃れることになった。1930年代にカウフマン邸(落水荘)を発表してライトの名声は復活、40年代に設計したグッゲンハイム美術館など、彼の8つの建築作品は2019年世界遺産に登録された。