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書物との出会いを通して人は新しい自己を発見する.臨床心理学の大家にとって,どんな本がその思考形成に大きな意味をもったのか.自らの読書遍歴で出会った百冊余の本を具体的に取り上げつつ,読書の楽しさと意味について語る.
■著者からのメッセージ
……私は本をあまり読まない方の人間だと思っている.しかし,それは読書嫌いを意味するのではない.読書は私にとって,非常に大切な楽しみの一つで,読みながら,そして,読んだ後もあれこれと考えるのは好きである.一冊の書物を読んだ後で,あれを考え,これを考えしているので印象が深く,ずいぶん以前に読んだ本が,後で役立つようなことも多い.
これもお話ししていることだが,子どものころや青年期に読んだ本の内容が,50歳,60歳になってから,自分が本を書くときに役立つのだから有難い話である.それにしても,このように子どものころから現代に至るまでの読書の体験を,時の流れに従って追ってゆくと,何だか子どものころから,今の状態を予想していたのか,と言いたくなるほど,ひとつの筋が通っているような気さえして,われながら興味深い体験であった.
こんなに楽しく有意義なことであるのに,最近は読書する人が減ったとのこと,残念で仕方がない.できるだけ多くの人に読書の楽しさを知っていただきたいと思うし,本書がそのために少しでも役立つと有難いことである.ここにあげた本は,すべて素晴らしいので,ひとつひとつを取りあげて,「皆さん,どうかお読みください」と言いたいほどである.
(「あとがき」より)
河合隼雄
1928年兵庫県生まれ.臨床心理学者.京都大学名誉教授.1952年,京都大学理学部数学科を卒業.1962-65年,スイス,チューリッヒのユング研究所に留学.日本で最初のユング派分析家になる.京都大学教育学部教授,国際日本文化研究センター所長等を経て,2002年1月より文化庁長官.
著書に『未来への記憶』(上・下,岩波新書),『ユング心理学入門』(培風館),『無意識の構造』(中公新書),『母性社会日本の病理』(中公叢書),『昔話と日本人の心』(岩波書店),『明恵夢を生きる』(松柏社),『臨床教育学入門』(岩波書店),『とりかへばや,男と女』(新潮社),『紫マンダラ』(小学館),『日本人の心のゆくえ』(岩波書店),『心理療法入門』(岩波書店),『神話と日本人の心』(岩波書店),『河合隼雄著作集』(全14巻)『河合隼雄著作集第II期』(全11巻)(岩波書店)など多数.