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写真家、中川龍平(Ryuhei Nakagawa)の作品集。
彼は、写真を身体的経験と内省的思索の交差点として捉え、巡礼のような「持続」と「反復」に根ざした行為を通じて丁寧に観察し、移動の過程に内在する多層的な経験を可視化することをテーマに作品を制作している。
本書は、2024年10月に、スペインの巡礼道、Camino de Santiago(カミーノ・デ・サンティアゴ)で撮影されたシリーズをまとめた一冊。
南仏サン・ジャン・ピエ・ド・ポーを起点に、ピレネー山脈を越え、都市と乾燥地帯を横断しながら、スペイン北西部サンティアゴ・デ・コンポステーラへと至る、約800kmを1ヶ月かけて歩きとおす旅程のなかで、彼は風景や他者と出会い、自身の身体の変化とも向き合うこととなった。
主題としては、「歩くこと」を通じた自己と世界との関係性の再考が中心に据えられ、運動と静止の対比を通じて、人が世界とどのように関係しうるかを問い直す試みでもある。
このようにして生み出される作品群は、ドキュメンタリーとパーソナル・ナラティブの境界に位置し、鑑賞者に対しても単なる風景の提示ではなく、「見ること」を超えた感覚的な参与を促している。