Detail
深い観察。
想像する。
スマホから出てくる情報に素直に影響受けたり、もしくは何を見たかも覚えていないくらいただ眺めていたり。
DEEP LOOLKINGというタイトルを見ただけでハッとします。
深い観察、DEEP LOOKING。自由でクリエイティブな思考のために。
——
アート観察を通じて困難な現実を乗り越える
実践から生まれた独自の方法論を一冊に凝縮
「BE ACID. ACIDをTAKEせず、あなた自身がACIDであれ」──坂口恭平
「創造性を決して失わずに論理的にアートを読み解く底力、日常にそれを自由に還元する方法が丁寧に描かれている、すばらしい本。」──吉本ばなな
近年、「アートの力」を活用して新たな機会創出をはかろうとする動きが強まっている。
アートの可能性を広げようと長年取り組んできた筆者のNPOのもとにも、
どのようにアートを取り入れるべきか、相談に訪れる人が年々増えている。
しかし、そうした相談を受けて私たちが「アートならではのメソッド」を提示することはない。
むしろ、メソッドとは対極にある肉体回帰的なアプローチこそなくてはならないと、声を大にして訴えている。
そしてそのヒントが、深い観察(ディープ・ルッキング)の実践にはあるのではないかと、筆者は考えている。
実際、セザンヌやピカソといった偉大なアーティストたちはみな、
より力強いクリエイティビティを発揮する意識状態へと自らを変化させるために、
深い観察(ディープ・ルッキング)を日常的に実践していた。
この意識状態において注目すべきは、平時の凝り固まった思考から解放され、
自由にクリエイティブに思考できるということだ。
いまの社会はかつてないスピードで変化しており、古い観念に囚われたままでは、やがて現実に対応できなくなっていく。
ディープ・ルッキングによってもたらされる非日常的な意識状態には、これを解きほぐし、
社会や世界をもう一度、ニュートラルな目で見ることを可能にする作用がある。
今日、世界は一日先の未来もわからないほどに、日に日に不安定さを増している。
にもかかわらず、生きている時間の大半を電子機器に支配され、注意を奪われ続け、
なにかをじっと深く観察することが難しくなってしまっているいまだからこそ、アーティストたちにならい、
「アートを観察する」という時間を意図的に設けることが、いまの私たちには必要なのではないだろうか。
本書では、筆者が長年独自に行なってきた研究をもとに、深い観察(ディープ・ルッキング)の歴史的背景とその実践について、具体的な事例も交えながら紹介していく。
アート好きはもちろん、この危機的な時代にどうやって社会を良くしていくことができるか、考えようとしている人にもきっと役立つ内容になっていると信じている。
本書が、不安定な時代の中で生きる読者が新たな地平を切り拓く一助となることを願っている。
<目次>
序章 なぜいま「観察」なのか──再発見される肉体回帰のアプローチ
第1章 見ているようで、見ていない──私たちはいかにして観察力を失ったか
第2章 革新を生んだ観察者たち──6人のアーティストに見る深い観察の物語
第3章 深い観察のためのプロトコル──現代によみがえる秘密結社の流儀
第4章 練習してみよう!──紙上からはじめるディープ・ルッキング
第5章 「適応」のための観察──危機の時代を生き抜くために
ーーーー
ロジャー・マクドナルド
Roger McDonald
東京生まれ。8歳から英国で教育を受ける。大学で国際政治学を学び、オーストリアにある欧州平和研究センター(European University Center for Peace Studies)で半年間、平和学を学ぶ。その後、カンタベリーにあるケント大学大学院にて宗教体験と神秘学を専攻、サイケデリック文化や禅と芸術について研究を行う。博士課程では『Outsider Art』の著者ロジャー・カーディナルの指導のもとモダンアート絵画と神秘主義(特に禅とアメリカの画家マーク・トビー)について研究する。この頃(1990年代半ばから末にかけて)、広島県にある神勝寺の国際禅道場にて2年連続で夏の修行をしたほか、シャーマニズムの研究者テレンス・マッケナのワークショップにロンドンで参加する。大学院修了後、1998年に日本に戻り、インディペンデント・キュレーターとして活動を開始、アーティストたちとともに展覧会やイベントをつくる。2001年に仲間たちとAITを設立、翌年にNPO認定される。AITではおもにアートの学校MAD(現・TAS*)のプログラム・ディレクションを行う。また、2003年から2013年まで東京近郊の美術大学で非常勤講師として教鞭をとっていたほか、2001年の第一回横浜トリエンナーレでアシスタント・キュレーター、および2006年のシンガポール・ビエンナーレでキュレーターをそれぞれ務める。また、2017年にはアウトサイダー・アートの大規模展覧会「ミュージアム・オブ・トゥギャザー」を東京でキュレーションする。そのほか、さまざまな展覧会やアート・イベントのキュレーターを務める。2010年に長野県佐久市望月に移住し、2011年に「フェンバーガーハウス」を設立。以降、館長を務めながら合宿やワークショップをリードしている。このときから「ディープ・ルッキング」の実践を始め、深い鑑賞を促す「ひとり絵画鑑賞部屋」やグループで深い音楽鑑賞を行う「レコード・サンドウィッチ・クラブ」を開催する。また、この時期から自身でもロンドンのナショナル・ギャラリーや東京国立博物館の東洋館で深いアート観察を実践し、その強烈な可能性に目覚めていく。2016年には観察実践集団「ESTAR(SER)」の活動に加わり、アメリカとブラジルで行われた国際会議にも参加。また2018年夏には、アメリカ西海岸にあるカウンター・カルチャーの聖地エサレンで、アーティストのアンナ・ハルプリンがリードする最後の夏のワークショップに参加。そしてこの年から気候危機について研究しはじめ、2019年に地元・望月地域の市民運動グループ「MOACA」を仲間たちと設立。現在、地域や学校で気候危機や適応に関してのレクチャーとディスカッションを積極的に行っている。2021年、「ザワメキアート」展キュレーター。また、同年より多津衛民芸館理事を務めている。