Detail
景気低迷や大災害の発生、地域コミュニティの衰退などにより、現在多くの人が将来に不安を感じており、心身の安定とケアを求める人は少なくない。森林にはその環境を利用したリハビリ効果、保健休養効果、心理的効果、療育効果など、人の心身の健康に寄与する保健機能が備わっている。本書は医療・福祉・教育の分野における「森林保健活動」を中心に紹介しながら、働き盛りの人々の保健休養にも言及する。
高齢化率43%の長野県北相木村では、村で最も人が集まる診療所を村づくりの拠点とするべく森林保健活動を導入。本来その地に生えていた木(潜在植生)を植樹することで精神の回復にもつなげる「託林」(命を託す意)や、昔の思い出話をすることによって認知症患者の大脳の神経活動が活性化され、生活行動レベルの維持などに効果がある「森林回想法」(心理療法)を実践。森の中で腰を下ろして回想する他、散策や軽作業によっていきいきとした表情を見せたり、感情的な落ち着きを取り戻す事例が報告される。
この他、入院患者の7割を占める認知症の症状改善が見られた鹿児島県の霧島桜ヶ丘病院、「森林ウォーキング」によって町をあげて高血圧の予防(自律神経のバランス改善)につなげる森林療法に取り組んだ北海道中頓別町、長野県下伊那郡松川町にある山間部の知的障がい者施設における療育活動、全国に広がる「森の幼稚園」などの事例が紹介されている。
手入れが必要な森林が増加する今日、人と森が共に健康になり、地域コミュニティの再形成にもつながる森林保健活動は、人と森の関係をつなぎ直す試みでもある。
上原巌
東京農業大学教授。1964年長野市生まれ。岐阜大学大学院連合農学研究科博士課程(生物環境科学専攻)修了。農学博士。日本カウンセリング学会認定カウンセラー。みんなの森代表世話人。寺子屋講座主催。
日本森林保健学会
2010年4月創設。子どもから高齢者まで幅広く人間と森林が共に健やかになることをめざし、その研究を行う学会。医療、福祉、教育、心理などの専門職をはじめ、林業家、学生、主婦など、会員層は広い。全国各地での研修会や調査研究活動を行い、市民の心のよりどころとなることも目的としている。