Detail
長年連れ添った妻に先立たれ、自らも病に侵された老人サムは、暖かい子供たちの思いやりに感謝しながらも一人で余生を生き抜こうとする。妻の死後、どこからともなく現れた白い犬と寄り添うようにして。犬は、サム以外の人間の前にはなかなか姿を見せず、声も立てない――
真実の愛の姿を美しく爽やかに描いて、痛いほどの感動を与える大人の童話。あなたには白い犬が見えますか?
本文より
犬は前足を折って地面に腹這いになった。頭を上げ、訴えるような声を出しながら、腹這いのままにじり寄って来る。こんどは立ち上がって、またそろそろ近づいて来る。もう少しで俺の指が届く。「そう、そう」彼はやさしく話しかける。「もうちょっとこっちに来いよ。咬みつくんじゃないぞ。咬みついたりしたら、あの除草器を脳天にお見舞いするからな」
犬は鼻面を伸ばして彼の指に触れると、一歩前に踏み出して、顎を掌にすりつけてきた。「いい娘(こ)だ、いい娘だ」彼は嬉しそうに話しかける。「ほんとにいい娘だ」……
テリー・ケイ Kay, Terry
1938年、米国ジョージア州生れ。ウエスト・ジョージア大学からラグレインジュ大学卒。地元の雑誌に映画や演劇の批評を寄稿したりしたあと、処女作『明りがついた年』を発表し、『白い犬とワルツを』で全米に知られる作家となった。エモリー大学で創作の指導も行う。現在ジョージア州アセンズに愛妻と住んでいる。
兼武進
1937年生れ。東京大学英文科卒。翻訳家。訳書は『白い犬とワルツを』のほか、ニール『真実』、エフロン『電話を切ったら…』、アップダイク他『母の魂』など。