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片岡義男の「北回帰線」。
小説家デビューを飾ってから34年。
「小説を書くとは、どういうことなのか」を考え続けてきた片岡義男のひとつの到達点。
1960年代の東京で、青年は小説家としての一歩を踏み出す。
それは孤独という完璧な幸福へいたる道ーー。
青年はいったい何を見たのか。幻をめぐり、世界は動く。
「これまでの自分が終わっていくのと同時に、
そのような自分が生きて来た時代というものが、湯沢が熱心に説くように、終わりを迎えている」
これまでの時代とその次に来るべき時代とのあいだで、自分の足もとにある深い亀裂の幅が、急激に広がりつつある。これまでと決別して、どこかへ向けて、自分はその亀裂を飛び越えなくてはいけない。このようなことを意識のすぐ下あたりで自覚しているはずの自分は、どこかへ向けて亀裂を飛び越えることに、いかに淡くはあっても、恐怖は感じているのではないか。