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生きる喜びを与えてくれる人間の歌
「死とはモーツァルトを聴けなくなることだ」――アインシュタイン。
例えば「フルート四重奏曲」K298に病床の日を、「レクイエム」K626に、喪った肉親を思い出す人もいるだろう。モーツァルトを聴くことは、自分の人生を確認することなのだ。本書は孤独な旅に悩みながら、道化や笑いを忘れず、女性を愛し、生活の苦しさにあえぎながらも神のごとくにペンを走らせた、人間味あふれる実像や、「軽さが沈み、重さが浮かぶ」といわれる、明るいけれど痛切な哀しみを秘めた作品群をとおし、長年のモーツァルト体験を感動的に語った力作である。巻末に著者が選ぶ「名盤150選」リストも付載。
高橋英郎
1931年、東京に生まれる。1957年東京大学仏文科卒業。現在、明治学院大学文学部教授。フランス文学、芸術思潮専攻。モーツァルトを中心とした音楽評論に活躍中。著書に、『人間の歌モーツァルト』――白水社、『世紀末の音楽』――小澤書店、『ラウル・デュフィ』――新潮社、『 モーツァルト』――音楽之友社、訳書に、『モーツァルトとの散歩』『魔笛』『モーツァルト書簡全集』――白水社、スタンダール『モーツァルト』東京創元社――などがある。1975年、プーランク=アポリネール『ティレジアスの乳房』の訳詩上演で第3回オペラ賞受賞。